メジャーになると言っても、何でメジャーになろうか。
壮太郎は、駅前のファーストフード店で、ハンバーガーを食べながら考えていた。
そして、コーラをストローで、チュウチュウと吸った。
そして、氷をガリガリ噛んだ。
ガリガリ、ガリガリ……。
俺の好きなものって何だろうか。
好きなものでメジャーになりたいな。
サッカーが好きだな。でも、サッカー選手には今更なれないし。
スポーツで、成功をおさめるのは無理だな。
そんな事を考えていると、隣にいたサラリーマン風の中年男二人が話かけてきた。
「お兄さん、学生?」
メガネをかけた男が言った。
「えっ。はい、そうです」
壮太郎は答えた。
「ちょっと今、時間ある?」
メガネの男とは別の、M字ハゲの男が訊いてきた。
「いや〜、まぁ、用事はないですけど、何ですか?」
「おいしい話があるねんけど、興味ないかな?」
M字ハゲの男が言った。
「おいしい話ですか」
「そう、おいしい話。興味あるかな」
そう言って、メガネの男が、壮太郎にグッと近寄ってきた。
「あると言えば、ありますけど」
「そうか、あるか」
メガネの男が言った。
「どういった話なんですか?」
「ここでは話せへんから、事務所に移動してもらわれへんやろか」
M字ハゲの男が言った。
「どうして、ここでは話せないんですか?」
「他の人には知られたくない、秘密のおいしい話やからねぇ」
M字ハゲの男はニヤリと笑った。
壮太郎は、少し迷ったが、もしかしてこれは神様が与えてくれた、メジャーになるチャンスかもしれないと思った。
「どうする、事務所で話をきくかい?」
メガネの男が言った。
「はい、事務所に行きます」
「そうか、ほな行こうか。ついて来て」
メガネの男とM字ハゲの男は、したり顔をして、立ち上がった。
壮太郎は、二人に案内されて、事務所へ行った。

つづく
 
つまらん、こんな生活はつまらん。
大学へ向かう電車に揺られながら、中山壮太郎はそう思った。
今春、大学に進学した壮太郎は、家と学校を往復するだけの毎日に、苛立ちを感じていた。
俺の人生はこのままでいいのだろうか……。
彼は、やりたい勉強があって、大学に入ったわけではなかった。
なんとなく、まわりの雰囲気に流されて、受験勉強をして、なんとなく大学に進学したのだった。
これでいいのか俺の人生。
何かしないと、何かしないと。
彼の頭の中で、何度もその言葉が繰り返された。
窓の外には、のどかな田園風景が広がっていた。
彼は車窓を眺めながら、この悶々とした生活から抜け出すためには、何をしたらいいのか考えた。
隣のサラリーマンが読んでいる新聞の見出しが、ふと目に入った。
『松井秀喜、満塁ホームラン!』
それを見て、彼は思った。
よし、大学を辞めよう。メジャーを目指そう。
メジャーになろう。何かでメジャーになろう。メジャーだ。
彼は大学に行くのをやめる事にした。
彼は次の停車駅で降りて、引き返した。

 つづく

最新の日記 一覧

<<  2025年4月  >>
303112345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930123

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索