現金に体を張れ!

2003年9月17日
鈴虫が鳴いている夜。
探偵事務所で、不破と渡辺はくつろいでいた。
「そういや不破、このまえ貸した3万円、返してくれ」
「3万円? そんなん借りてましたっけ」
「とぼけるな。借用書はあるんやぞ」
「冗談ですって」
不破は、財布を覗いた。
1430円しか入っていなかった。
「渡辺さん、お金ありませんわ。ほれっ」
不破は、財布の中を渡辺に見せた。
「貯金おろしてこい」
「宵越し銭は持たない主義なんで、貯金なんてありまへん」
「なにアホな事を言うてるねん。はよ金返せ」
「そんなん急に言われても、ない袖は振れまへんな」
「なに偉そうにしてるねん」
「昨日、給料もらって、全部ローンに消えてしまったからなぁ」
「どんだけ給料安いねん」
「ローンが高いんですって」
「そうや不破、金増やしに行こか」
「増やすって、どうやって?」
「ギャンブルやがな」
事務所を出た2人は、S駅南側にある繁華街へと車を走らせた。
「不破、次の信号を右や」
「渡辺さん、その賭博場に行った事はあるんですか」
「たまに行ってる」
「危険じゃないんですか。ヤのつく職業の人がいそう」
「向こうも商売でやってるし、客が来なくなる事はせえへんわ」
スーパーの駐車場に、車を停めた。
風俗店などが並ぶ通りを抜けて、少し静かな通りに来た。
渡辺に連れられて、不破は雑居ビルへ入った。
ビルの入り口には、見張り役っぽい大男が立っていた。
エレベーターで5階にあがった。
「あの部屋やわ」
渡辺が、ドアを指差した。
「ごく普通のドアですね、意外ですわ」
「豪華なドアにしたら、不自然でバレるやろ」
渡辺がインターホンを押した。
しばらくすると、ゆっくりとドアが開いた。
どんな人が出てくるのだろうと、不破はじっと見た。
出てきたのは、おばあさんだった。
「なんの用でごじゃいますか?」
小さな声で、おばあさんは言った。
「渡辺さん、本当にここなんですか?」
不破は、渡辺に聞いた。
「このおばあさんは、カムフラージュさ」
「なるほど、そうか」
「おばあさん、アイーン」
突然、渡辺はおばあさんに向かって、志村ケンのギャグをやった。
不破は、渡辺の奇行に唖然とした。
「これが、中に入るための合言葉なの」
渡辺は照れながら言った。
「アイーン」
不破も一応真似してやった。
「うひょひょ、どうぞ、どうぞ、いらっしゃいませ」
おばあさんは、2人を部屋の中へと招き入れた。
不破は、渡辺の後について、おそるおそる部屋に入った。
そこには、5畳くらいの狭いホールがあった。
ピンク色の薄明かりで、お香の匂いがする。
「ここで、チップを買ってくだされ」
おばあさんは、そう言うと、ドアの前の椅子に腰をかけて、ウトウトとしはじめた。
渡辺は、3万円をチップにした。
不破は、1400円をチップにした。
金額が少なくて、恥かしいなと思った。
一枚100円のチップ、300円のチップ、1000円のチップ、5000円のチップがあって、不破は100円のチップを14枚手に入れた。
チップに交換してくれたお姉さんが色っぽくて、不破は気になった。
「さあ、ガンガン儲けるぞっ!」
渡辺が気合いを入れた。
「うひょ〜」
不破は興奮して、奇声が出た。
2人は、賭博フロアの真赤な扉を開けた。

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